9日目の朝、境川部屋に小包が届いた。あて先は、豊響。箱の中には差出人の手作りと思われる 「紅茶杏仁プリン」。これにファンレター、そして差出人本人の写真が添えられていた。女性ファンの 写真なら素直に喜べるのだが、困ったことにこれが30歳前後の男性の写真だったのだ。 しかも手紙の内容が単なるファンレターではない。「豊響関、頑張ってください」と書き出しこそ普通に 始まっているものの、徐々に文面がエスカレート。最終的には「ひびきとデートしているところを 想像したりして・・・」と抑え切れない豊響への熱い思いを吐露しつつ妄想を膨らませているのだ。 以前から、この男性は何度かファンレターを送ってきたが、食べ物まで届けたのは初めてのこと。 少々気味は悪くても、食べ物を捨てるのは忍びない。そこで念のために付け人が毒味をすると 「味がしないです」。 これで一層気味が悪くなった豊響は「塩まいてくれ!」。付け人に塩を持ってこさせ、自分の体と 手紙に振りまいて邪気を払った。 部屋の先輩力士は面白がって「部屋の掲示板に張っておこう」などとちゃかしているが、 豊響本人は真剣に悩んでいる。「男から好かれるタイプなんですかねえ・・・」。男性だろうが、 女性だろうがファンは多いに越したことはないものの、豊響の猪突猛進の突き押し相撲に 迷いが生じても仕方がない。 この日は春日王の小手投げに倒れた。紅茶杏仁ショックが尾を引いていたのは明らかだったが、 こんな悩みも幕内に昇進し、人気力士の仲間入りした証し。「(どんなファンからも)応援して もらえることはうれしいことです。自分の相撲を取るだけです」とファンのためにも残りの取組で 全力を尽くすことを誓うのだった。 (東京スポーツ 2007年9月19日(水)販売号より) |