「もしかして、もしかするかも…」。
臨時日本ハム担当の女記者・関根は思わず息を飲んでマウンド上の日本ハム・多田野数人(29)を見守った。
10日、札幌ドームで行われた日本ハムVSロッテ戦に先発した多田野は、
9回二死まで1本のヒットも打たれず、最後の打者・大松尚逸外野手(27)を迎えようとしていた。

ノーヒットノーランまであと1人…だが次の瞬間、大松の放った打球が快音を残して右前に弾むと、
札幌ドームは「ああ〜っ」という大きなため息に包まれた。

それでも気を取り直して次打者を打ち取り、プロ初完封勝利。チームの連敗も5で止めた。
多田野は「初回からとにかく腕を振って、投げました。
いいピッチングができたのはファンの皆さんのおかげです!」と声を張り上げた。
そんな多田野の晴れ晴れした表情を見ながら、球団関係者が関根につぶやいた。
「これで多田野人気も、もっと出るといいんだけどね」。
昨季、メジャーからの「逆輸入投手」として鳴り物入りでデビューした多田野は、
メディアにも多く取り上げられ話題を呼んだ。

迎えた2年目の今季、球団は本格的な売り出しを考えたが、本人の不振が足を引っ張った。
開幕ローテーション入りしたものの調子が上がらず、2度の登録抹消。
2年目のブレークを見込んで作られたTシャツとタオルマフラーのグッズも
「売り上げは伸びていない」(球団関係者)という現状だった。

しかし、今回の快投劇で確実にファンは増えるだろう。
今後の活躍次第では、グッズを大展開する可能性も出てきた。
「何はともあれ、良かったわね」。
海の幸満喫ツアーをもくろみ、昼食を抜いた関根もホッと一安心して、すし店に飛び込むのだった。

7月11日発行 東スポ『同時進行ドキュメント プロ野球2009』より