我々の医局でウルトラクイズに医師を派遣しだして 3年になる。ひょんなところ(つまりは飲み屋)で知合った TV局のプロデユーサーとかいう、一般人には聞慣れない職業の人からの紹介であった。
第12回は 2年先輩が行き、ふらふらになって帰ってきた。翌年分院からの長期出張を終え帰ってきた僕に(つまり疲れ果てた先輩の姿を知らない僕に)医局長から白羽の矢がたった。
「阿部、専門医の試験も合格したことだしちょっと息抜きに旅行でもしてきたらどうだ。旅費も向う持ちだし、楽しいぞ。」
「え、本当ですか。僕なんかが行っていいんですか。」
「勿論いいに決っているじゃないか。ただし医師派遣費は医局の研究費にするけどいいよな。」
「はい、それは結構ですけど、一体何をすればいいんでしょうか。」
「同行医師の仕事なんかたいしたことじゃない。観光してりゃいいんだよ。○○なんかもう一度行きたいってうるさいのなんのって、なだめるのに大変なんだぞ。ともかく行ってくりゃいいんだから。」
医者の嘘は方便と言うことをいうことを思い出したのは成田を飛立ってまもなくであった。
翌平成 2年 6月、再び医局長から電話があった。
「学会主催する関係上、人がいない。去年も行ったんだからついでに今年も行ってくれ。それじゃあ頼んだよ。あ、そうそうこれは上の方にも、もう言ってあるからね。」
「え、でも....」
「え、電話が遠くて何を言っているのか聞えんぞ。あ、そうそう、それとこの前、白い巨塔のレーザディスクをみつけたんでそっちにも送っといたから。見ておくようにな。」
「不肖、阿部 聰、医局のためならば喜んで行かさせて頂きます。」
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