私は、1996年10月18日放送「探偵!ナイトスクープ」(吉見君リターンズ)に出演した。しかし、それは「やらせ」出演であった。このホームページでは、私の体験に基づいて、複雑に入り組んだテレビ業界に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明することを目標とする。



2001年3月29日(木)開設
ABC「やらせ」事件の概要
「放送内容」・・・1996年10月18日放送の「探偵!ナイトスクープ」(吉見君リターンズ)は、4ヶ月前に依頼が採用された人から、再び依頼が舞い込んだという設定である。依頼文では、「子どもの頃から運動オンチのぼくの夢は、サッカーでシュートをきめ、野球でホームランをかっ飛ばし、ジャニーズの人のように鮮やかにバック宙をきめ、一躍女の子の人気者、スターになりたい」と表現されている。そして、タレントが「吉見君は一度依頼を採用してやっても、しつこく依頼を送り続けてくる」と発言し、VTRに移る。まず、放送局の本社前に私が駆けこみ、「スポーツできるようになって、女の子にもてたらいいなぁ」などと、発言。そのためにタレントも力を貸すと約束してくれる。続いて、サッカーのシーンに移り、元サッカー選手の指導を受けるが、ボールもまともに蹴ることができない。一応、シュートをきめ、大げさに喜ぶ。続いて、バッティングセンターで野球の練習。空振りばかりしている私を元野球選手が指導すると、30分ほどで、少し上達。「スイングは完璧。明日はとっておきのやつを用意してあるから。」とタレントが発言し、ジムの場面に。「バック転できたらいいなぁ」と発言する私に、「バカ、お前、サッカーも野球もダメだったじゃないか!」とタレントが突っ込む。そして、インストラクターに従って、黙々と練習し、トランポリンの上では、かろうじてできるようになり、一応「サッカーも、野球もダメだったけど、バック宙だけはできるようになった」というタレントのコメントで、スタジオに切り替わる。タレントたちのトークは、「最初のうちは面白かったけど、だんだん腹が立ってきたね」、「普通だったら、依頼者に対して、愛情が湧いてくるじゃないですか」、「そんな奴に優秀な先生の指導を仰ぐなんて、失礼じゃないか」というものである。
「放送における、虚偽、誇張表現」・・・私は、「スポーツできるようになって、女の子にもてたい」依頼者を演じていた。スポーツできるようになりたいとは、特に思わないし、仮にできたとしても、この顔では女の子にもてない。(別に顔で決まるわけじゃないが・・・。)1度出演したあとは、しつこく依頼を送りつづけるようなことはしていない。依頼文は、スタッフが一方的に作成したものである。サッカー、野球、バック宙の順序で放送されているが、バック宙、サッカー、野球の順序で1日で収録されたものである。私の年齢が22歳と表現されているが、23歳である。サッカーのシュートをきめ、大喜びする姿は、スタッフから求められてやったものである。元野球選手が有名な人とは知らなかったのは事実だが、収録時に「有名な人ですか?」と聞いたのは、スタッフに求められたからである。バック宙をできるようになりたいとは、全く思っていない。当日、現場でインストラクターに「どうしても1日でやりたがっている」と紹介され、また、途中で「また、しょうもない奴ということになっていいのか!」とタレントが怒鳴り散らしてきたので、嫌々ながらやったものである。
「取材・収録に至るまで」・・・96年10月1日昼前、局から島根県松江の自室に電話。「ある人から、どんな運動オンチの人でも1日でバック転ができるという情報をいただいた。5人ぐらい集めて、実験をやる。若い人の代表として、協力してくれないか」というもの。折り返し電話し、「ガセネタに決まっている。できるはずない」といったが、それでも来てくれということであった。さらに、その後の電話で、今す
ぐ飛行機で大阪に来て、大阪で1泊するよう指示される。「できる訳ない」と念押しして、夕方の飛行機で大阪へ。タクシーで局に着き、ホテルにチェックイン。部屋で少し休んだあと、レストランで打ち合わせ。電話してきたディレクターのほか、別のディレクター、構成作家に囲まれる。そこで「電話の話は忘れてくれ。君に依頼者として、タレントさんと一緒にいろいろなスポーツをやってもらいたい」と持ちかけら
れる。頼まれて依頼者になったということは、他の出演者に言うのかと確認すると、内緒にしておけということである。私は、子どもの頃のスポーツの失敗談を話し、「楽しいと思ってスポーツをやったことがない」と訴えた。「だから、楽しんでほしいのです」と言われる。そして、「スポーツできるようになって、女の子にもてたいということで、例えば、サッカーでシュートをきめたいとか、野球でホームランを打
ちたいとか言いながら、スポーツをやってもらいたいのです」と持ちかけられた。できるようになるまでやるのかと確認すると、あくまでも娯楽番組だから楽しんでくれればいいということである。具体的なスポーツ名はサッカーや野球のほか、テニスなどが挙がった。そして、あるディレクターが「バック転できたらいいと思いませんか?」と質問し、「できる訳ないです」と私が答えると、「それができるのですよ」とディレクターが軽い調子で言う、というようなやり取りが3回ぐらいあった。だから、私も心配になって、「じゃあ、バック転の話は?」と確認したら、3人は口をそろえて、「その話はなかったことにしてください」という。私も、バック転の練習をしなくていいということで「あぁ、良かった」といった。そして、依頼者を演じることを承諾してしまったのである。ただ、具体的に何をやるかは当日現場についてからのお楽しみということだった。
翌朝(10月2日)、ホテルの自室に担当ディレクターから電話。時間が長くなるかもしれないから、もう1泊してくれとのことである。そして、インタビューのあと、ロケバスに乗って、途中で私が着るジャージを購入し、約1時間でジムについた。バスから降りる時に「今から体操や」とタレントが言ったが、ラジオ体操ぐらいに思っていた。ところが、ジムに入るや否や、「こいつがバック転やりたいと言っています」と紹介され、インタビューのあとも「どうしても1日でバック転できるようになりたいといっています」とインストラクターに紹介されてしまった。最初は冗談でやらせているのかなと思ったが、次第に本気でやらせるつもりだと気づく。スタッフ、タレント、私を依頼者と信じている3人のインストラクターに囲まれ、逃げ切れないと思った私は、結局そのうち本気になり、約6時間に渡るバック宙の猛特訓を受けたのである。前述のようにバック宙のロケの後、ロケバスに乗せられて移動し、途中でコンビニのおにぎりを与えられ、サッカーと野球のロケを約1時間ずつやり、深夜にロケが終わった。そのあと、打ち上げがあったが、タレントも褒めてくれたので、一応大丈夫かと思ったのである。
それが放送を見たら、めちゃくちゃな扱いをされているのでショックを感じた。しかし、私も「やらせ」の共犯者ではないかという気もちがあり、また、特にバック宙の猛特訓が辛かったが、「嫌なら帰ればいいのです」という人もいて、かなり混乱してしまった。また、当時、依頼は送っていなかったとはいえ、最も好きなテレビ番組の一つであっただけに、なかなか気持ちの整理もつかなかった。私がこの体験から得た教訓というのは、テレビという公器を使って、思ってもいないことを「思う」というような「やらせ」には絶対協力してはならないということである。また、いじめを助長するような番組がたくさんあるが、それをタレントの内輪のことだと笑っていてはいけないということである。いじめに対して鈍感になり、一般の人までテレビ内のいじめの対象になっているのである。そして、いじめをいじめと感じなくなった時、現実の社会での弱い者いじめは益々陰湿になる恐れがある。
はじめにストーリーがあって、そのとおりに撮影しようとすることにも無理がある。
そして、そのようにしてつくられた番組には、何の意味もない。視聴者は不快なだけだ。視聴率至上主義はよく批判されるが、この番組の視聴者には、賢い人も多かったようで、いつもより視聴率は低かった。
その放送を見ていない人には、何のことかよく分らないかもしれませんが、この問題をもとにいろいろ考えていただけたらありがたいです。

私は吉見顕と申します。
愛知県に住んでいます。
ご意見ご感想は、 akirapap@yahoo.co.jp までどうぞ。

ここから先は論文調。

「テレビ番組が視聴者に与える影響」
朝日放送「探偵!ナイトスクープ」における「やらせ」問題は、どのような視点から見つめるべきであろうか。私への人権侵害という視点から問題提起をしても、他の人には理解しにくいであろう。人権侵害ということでどんなに大騒ぎしても、それはとどのつまり、私と朝日放送との間で解決されるべき問題だからである。話し合って解決できなければ、司法に裁いてもらうというのが、正しい方法だ。
しかし、本質的問題は、今回の「やらせ」(偽情報の送出)が、視聴者に対してどのような影響を与えたか、ということにあると思われる。多くの人は問題の放送を見ても、「面白かった」とか「つまらなかった」という漠然とした感想しか抱かないだろう。しかし、ごく一部の人にしても、その番組を見たことによって、大きな影響を受けることがあるのではないか。具体的に言うと、「サッカーも野球もダメだった奴が、バック宙はできた」というストーリを見た人の一部が、器械体操に大きな関心を示すこともあり得るのではないか、ということである。「探偵!ナイトスクープ」の主な視聴者は、20代から30代の若者であろう。関心を持った人が、自らの意志で器械体操に取り組むということな
ら、まだいいにしても、例えば4、5才程度の幼児を体操クラブに通わせるという親もいるかもしれないと思うと、私はこの「やらせ」問題を放置できないのである。体操クラブの主な指導対象者は、就学前の子どもであり、実際、ロケ中もたくさんの子どもが練習に励んでいた。もちろん、子どもの気持ちを尊重しながら、丁寧に指導している人も多いとは思うが、十分に自分を表現できない子どもが、親などの期待に応えるために無理をしていることもないとはいえない。
放送では、サッカー、野球、体操を同程度の時間で、あっさりと流している。そして、体操については、インストラクターについては全くと言っていいほど紹介していない。だから「宣伝に利用されたのではないか」という私の疑問に、「考えすぎだ」というのも分らないではない。
ただ、少し気になることがある。後日、インストラクターに電話して、次のことが分った。
1・私の収録の半年前に、「Kissした!?SMAP」(朝日放送)という番組でジャニーズ
ジュニアの人たちに1日でバック転を教えたこと。
2・1か月ほど前に、「探偵!ナイトスクープ」の企画で、主婦に逆上がりを指導する予定だったが、折り合いがつかず中止になったこと。
3・数週間前に、同じく「探偵!ナイトスクープ」で、街行く人に「あなたはバック転をやりたいですか」と質問して、「やりたい」という人が5人集まったら連れて行くという企画があったが、結局中止になったこと。
こういう話を聞かされると、そこまで体操にこだわる理由は何か、ますます疑問に思う。もちろん、事実に基づいて、正当な方法で制作して体操を紹介するのは構わない。(ただし、その場合でも、他のスポーツやスポーツ以外のことを紹介する機会を設けるなど、バランスが大切だ。)しかし、「やらせ」(偽情報の送出)によって、視聴者に影響を与えた可能性が多少なりとも否定できない以上、朝日放送は「やらせ」があったという事実を視聴者に知らせるべきであった。
インターネットで調べたところ、「探偵!ナイトスクープ」には、2000年9月放送分にも「やらせ」疑惑があったようだ。その際、朝日放送はホームページにおいて演出の範囲内であることを説明したということである。では、出演者本人が、「やらせ」だと告白していることに、朝日放送はどのように説明するであろうか。それとも、黙殺を続けるつもりであろうか。